スペイン・マドリード生まれのイニゴ・マングラノ・オバレは、写真、ビデオ、彫刻、インスタレーションなどの方法で社会に向けたパブリック・プロジェクトを展開する、アメリカのコンセプチュアル・アーティストである。彼はモダニズムや近代性、ユートピアの具現のための科学技術の野望などの理念の結果としてもたらされた社会的、地政学的、生態学的現象を、弁証法との関係から探求した。
マングラノ・オバレの初期のプロジェクトでは、移住と移民、文化的アイデンティティ、社会・地理的境界、都市暴力に関する問題を扱うため、コミュニティ中心の社会参画戦略が用いられた。
その後は、より概念的な方向に発展し、文化、科学と技術、生態系などに関する広範囲の意思疎通プロジェクトを行っている。マッカーサー基金(MacArther Foundation)、ジョン・サイモン・グッゲンハイム記念財団(Guggenheim)、アメリカ国立芸術基金(National Endowment for the Arts)などからフェローシップを授与されている。
マングラノ・オバレは、モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエと関連する様々な作品を制作しているが、《重力は無視できない力(Gravity is a Force to be Reckoned with)》は、図面としてのみ残っているミースの未完成プロジェクト(1951年)を、半分のスケールで制作した作品である。ミースに関するマングラノ・オバレの研究は、モダニズムと近代性に対する問いかけから始まっており、斬新さと革新、ユートピアに向かうモダニストたちの理想が、ディストピア的な社会の現実と衝突しながら、危うくもそのバランスを保っていることを示している。
建築の本質を追い求め、ミースが「Less is More(少ないほど豊かである)」を極大化して行おうとしたこの未完成プロジェクトは強く制限され、最低限の鉄の骨組み以外、四方をガラスで囲まれており、事実上、人が住むことのできない家となっている。ガラスの透明性は内と外の境界を曖昧にし、周りの環境を引き込んでいるが、逆に、ガラスの壁で閉ざされた無菌室のようなこの未来主義的空間での生活は、実際には優雅でもなく、美しくもない。この空間において、抑圧された自由と権力に対する抵抗の意志が、マングラノ・オバレの提示した様々なオブジェや状況描写を通して空間の緊張感を醸し出しており、観る者に様々な問いを投げかけている。